Riesling
 ドイツワインといえば、とにもかくにもリースリング。長い歴史の中で育まれ多くの人々に愛されたこの葡萄の典雅な味わいは、世界中のどの葡萄をもってしても代え難い個性を宿している。
 歴史上の偉人から、酔っ払って管を巻く庶民に至るまで酒飲みという酒飲みが愛してやまなかったこの葡萄の優雅な酸、艷やかな果実味、芳醇な香りの秘密は?

リースリングを理解する
 何故リースリングがドイツの代表品種なのか?
ドイツワインの最も大きな特徴のひとつは、原料葡萄の甘さを基準とする格付方法だろう。つまり葡萄が甘ければ甘いほど良いワインになるという理屈である。
 世界の葡萄栽培地の中で最も北に位置するドイツでは果実の完熟までに長い時間がかかるから、晩熟型のリースリングが好まれるのもこうした背景に品種的特徴が合致する故である。
 またいかに完熟葡萄が尊重されるとはいえ闇雲に甘いばかりでは良いワインとはなり得ないから味のバランスが求められる。端的にいえば甘みに匹敵するだけの力強い酸味が必要なのだ。晩熟とエレガントな酸。リースリングの特徴は、そのままドイツワインが理想とする葡萄の「かたち」なのである。

生産
 ドイツでは1995年までは、収穫率の良いミュラー・トゥルガウが栽培高第一位だったが、1996年の統計ではリースリングがこれに代わっている。生産者、消費者の志向がより付加価値の高い葡萄へと移行していることの現れだろう。同国では年々赤ワイン用葡萄の作付けが増える傾向にあるが、リースリングが同国の葡萄の中では最も優れているという伝統的評価は、変わっていないようだ。

品種的特徴
 粘板岩、石灰岩、火成岩土壌などに適応し、晩熟で耐寒性に優れる。つまり、ドイツの風土と大変相性が良い。霜害にも強いので遅摘み葡萄やアイスヴァイン用葡萄の生産にも向いていると良いことずくめ。ただし、日当たりの良い場所で完熟させなければその実力を発揮しないので栽培には大変な労力を必要とする。果皮に黒色の斑点ができるのが熟した目安である。

歴史
 リースリングの起源に関しては詳細に解明されていない。文書の初見は15世紀、1435年のことだから少なくともそれより以前から栽培されていたはずである。隆盛の基礎を築いたのは、皮肉なことにドイツの葡萄畑をほとんど壊滅状態に追い込んだ三十年戦争(1618-1648)であった。ヨーロッパ諸国を巻き込んだこの宗教戦争は、政治闘争の様相まで帯びて長引きに長引き、ドイツの葡萄栽培地域はその前線のひとつであった。戦後、シトー会やベネディクト会などの教会が荒れ果てた畑に率先してリースリングを植付けたことがきっかけとなり、その優良性が知られ18世紀末までにはライン、モーゼルの葡萄畑のほとんどがリースリングに植え替えられたという。
以来、ドイツワインを代表する葡萄として愛され続けている。

味わい
 リースリング・ワインの特徴はなんといっても爽やかな、そして余韻として強く残る心地良い酸味だろう。この個性は辛口のカビネットから極甘口のアイスヴァインやトロッケンベーレンアウスレーゼに至るまで同様である。コク、甘み、厚み、旨み、酸度、といった白ワインの味を構成するほとんどの要素に対して、リースリングの酸味は対バランスの試金石、あるいは羅針盤として機能するのだ。恐らく、初めてワインを飲む人でもリースリングの味わいは他のものと区別できるはずである。分かりやすくて、奥が深い。それがリースリングなのである。